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Diary 写メ日記の詳細

第二十一話:お兄ちゃん…大好き!
羽田千冬 2025.10.12
第二十一話:お兄ちゃん…大好き!

「ありがとう、俺嬉しいよ」

ちゅきのがそう言うと、


その場でバスケットボールを手に取り、


軽やかな動きでシュートを打った。

『シュ…ッ…』

ボールは美しい弧を描き、ゴールに吸い込まれる。


スリーポイントが決まった瞬間、空間が歪んだ。


コートは一瞬で消え、目の前には親しみのあるリビングが広がる。

「俺の能力は


『頼れるお兄ちゃん』だよ、どうぞよろしくね」

バスケユニフォーム姿だった彼は、


いつの間にかシンプルなスーツに着替えている。

彼の声は先ほどよりも落ち着いていて、


どこか優しさに満ちていた。

「ここまで来るのに疲れたよね。


ミカンでも食べながらここまでの話をしてよ」

私は「い、いや…」と躊躇しながらも、


足の疲労には勝てず、言われるがままに椅子に腰を下ろした。

「今まで頑張っていたんだもんね…


なんでも話してよ」

疲労と、この世界で感じてきた様々な感情が、


一気に押し寄せてきた。

「甘えてはいけない…」と分かっていながらも、


心の中のダムが崩壊したかのように、


私はこれまでのことを話し始めた。

「聞いてくれるの?」

「もちろん。


俺はイマちゃんのこと、


本物の妹みたいに思ってるからね」

「じゃあ…お言葉に甘えて…」

彼の言葉に流されるように、私は夢中で話し出す。


まるで本当のお兄ちゃんと会話しているような気分。


何の遠慮もなく、自分が満足するまで。

彼は「うんうん」「頑張ったね」


「大変だったんだな」と、


私の話を邪魔しない程度の相槌を打ってくれる。

もう、ここがどこなのか、


自分が何を目的にしていたか


忘れてしまうほどに、話に夢中になっていた。

ほぼ一方通行の会話だったが、


今の私にはこれが心地よかった。

反論も肯定も一切せず、


ただ第三者視点で優しく声をかけてくれる。


「自分の話ばかりでつまんないかな?」


なんて感情は全く湧いてこない。

(結局、私はこういうのが良いんだろうな…)

そんなことを考えながら、


私はここまでの話をすべて話し終えた。

「聞いてくれてありがとう、"お兄ちゃん"」

その時、私はハッとした。

「今…私、お兄ちゃんって言っちゃった?」

「そうだね。


でも、もう一度言うけど、


俺はイマちゃんのこと、


本物の妹みたいに可愛がりたいよ」

彼の優しい言葉に、


私の心に温かいもやもやが生まれる。

(あれ、この気持ち…


恋愛とは違う…なんなの…?)

「それは家族愛だよ。


恋愛のドキドキとは違う、


親愛ってやつだよね」

彼が、私の心を見透かしたように教えてくれた。

(多分、この時に


『大好き』なんて言ったら…


リセットされてしまう…)

「それでも…私は…!」


「お兄ちゃん…だいす…」

言いかけた途端、


120分を告げるチャイムが鳴り響いた。

「あと一文字だったのに!」

彼はニヤニヤしながら、悔しそうにそう言った。

しかし、


私の話を120分間、


ただひたすらに聞き続けてくれたのは事実だ。

この温かくて優しい気持ちは、


私にとってかけがえのないもの。

私は本物の兄ではない目の前のメンズに、


心からの笑顔を向ける。

「お兄ちゃん…大好き!」

そう言って先に進む。

不意に振り返ると、


彼は本物の妹を見るような優しい笑顔で


手を振ってくれていた。

「行ってらっしゃい。気を付けてね。」

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