Diary 写メ日記の詳細
「強制本気モードだよ、よろしくね」
さっきまで外国人だったのに、
一瞬で流暢な日本語を話す、声のいい日本人に変貌した。
その声を聞いた瞬間、私の心臓は高鳴り、視界が歪む。
美術館のような無機質な空間は、
城の中のような優雅な空間に変わっていった。
「僕の能力は、『エレガントチート』
今度こそ幸せにしてみせます、姫様」
「姫…?」
不思議に思ったが、
女の子なら必ず一度は夢見るであろう、
プリンセスのようなシチュエーション。
私も例外ではなかった。
「あなた、ホワリバ画伯じゃないの…?」
「僕は白川椿。
ホワリバならバングラデシュに帰られました」
「そ、そう…」
彼の言葉に、私はただ呆然とするしかなかった。
「僕のことはどうでもいいのです。
僕の務めは姫様にお仕えすること。
さぁ、お手をどうぞ」
彼は膝をつき、
聞き惚れてしまうほど良い声で私に囁き、
手を差し伸べてきた。
「ありがとう。なんか、すごく上品だね」
「当然でございます、姫様なのですから」
そう言いながら、
彼はエレガントな動きで私を王座まで導いた。
王座につくと、
すぐにお茶が出てきて、
肩を揉んでくれる。
私が何かをしようとするたびに、
彼はすべてのことを至れり尽くせりでこなしてくれる。
とにかく隙が無い。
極めつけは、その『声』だ。
私はふかふかの王座に座らされ、
プリンセスのようなドレスを着せられ、
抵抗する暇も与えられない。
眠りに誘うような甘い声で、彼は私に囁き続ける。
「姫様、ティータイムになさいましょう」
「姫様、肩揉みをさせていただきます」
「姫様…姫様…姫様…!」
尽くされすぎて、私…
何もすることないじゃん…!
この感覚は、以前のメンズ、
羽田千冬の執事Styleを思い出す。
しかし、その時と違うのは、
この白川椿が良い声で攻めてくること、
そして私が「姫様」として扱われていること。
エレガントすぎる彼の振る舞いに、
私はただ身を任せるしかなかった。
「いかがなさいましたか…?
ぼーっとされているようですが」
「い、いや…
このシチュエーション…好…」
「全然、好きじゃない!!」
思わず口から出そうになった言葉を、
私は寸前でねじ曲げた。
ここで「好きだなぁ」なんて
言ってしまっていたら、
きっとリセットされていたのだろう。
しかし、内心はめちゃくちゃ好き。
もう一生ここにいたいとさえ思ってしまう。
だが、現実世界に帰るためにも、
ここは我慢…我慢…。
「体調が悪いのですか…?
険しい顔をされていますが…」
心配そうに声をかけてくる白川椿に、
「思うところがあって…」と
答えようとしたら、
彼の顔が目の前にあった。
何という美形。
顔も良い、声も良い、シチュエーションも良い…。
(もう…いいのかな…
私、禁域に来て幸せしか味わってないよ…)
気持ちがホワホワしてきて、
口角が数ミリずつ緩んでいくのが自分でも分かった。
「えへへ…」
思わず声が漏れてしまい、
彼がニヤリと笑った。
しかし、
ちょうどそのタイミングで、
120分経過を告げるチャイムが鳴る。
「危なかった…」
「…姫様プレイはいかがでしたか?」
彼は少し悔しそうな表情をしながら、
私に尋ねてきた。
「最高だったよ。
ずっとここにいたいなんて思っちゃった」
私はそう答える。
それは100%の本心だった。
「喜んでくれたなら本望です」
そう言いながら、
彼は私の頭を優しくなでてくれた。
少々デレデレしてしまったが、
今は時間外であるため問題ないようだ。
私はしっかりと
『エレガントチート』を最後まで堪能し、
次の階層へと向かうのであった。
