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第十七話:それでも、同じ人間なら
羽田千冬 2026.09.05
第十七話:それでも、同じ人間なら

「ん…ここは…」

コンクリートの冷たさで目を覚ます。


見上げれば、ネオンに照らされた


歌舞伎町タワーの巨大なシルエット。

「私、やっぱりデレちゃったか…」

あの美しい歌声と、


間髪入れない甘いキス。


思考が完全に溶かされ、


一瞬で残機を持っていかれて


最初からやり直しになった現実を、


痛いほど理解する。

「はぁ…またやり直しか」

思わず口から弱音がこぼれたけれど、


ここで立ち止まっていても仕方がない。

私は服の汚れを払い、


再びエントランスの自動ドアをくぐった。

階段を上がり、辿り着く第一階層。


羽田千冬の部屋。

扉を開けると


やはり、誰もいない。

(ロングフリーズで


リセットされてからの仕様は、


どうやら変わらないらしいわね)

ってことは、


きっと次の第二階層、成田千晴の部屋に


また2人で揃っているはずだ。

私は臆することなく階段を駆け上がり、


迷わず第二階層のドアを勢いよく開ける。

案の定、


部屋の中には羽田千冬と成田千晴の


2人が並んで待ち構えていた。

「ごめんn…」

「あんた達、出過ぎなのよ!!」

羽田が気の抜けた調子で


言い訳を始めようとした瞬間、


私は間髪入れずに怒声を叩きつけた。

いくらなんでも序盤で


ツインズとして出張りすぎだし、


こっちはテンポよく上に行きたいのだ。

すると、


私のあまりの気迫に押されたのか、


それとも「大人の事情」というやつなのか。

羽田千冬と成田千晴は、バツが悪そうに


少し申し訳なさそうな顔を見合わせると、


一言も発さずに次の階層へつながる


奥のドアを指差した。

「…行っていいの?」


私が怪訝そうに尋ねると、


2人は揃ってコクコクと無言でうなずく。

「なんか喋らないのも調子狂うわね…」

ちょっと拍子抜けしながらも、


小言をこぼしつつお言葉に甘えて


足早に通り抜け、第三階層へと向かった。

階段を上り、辿り着いた第三階層。


まだ名前も知らない、あの人の部屋。

「そういえば…


歌に圧倒されて、すぐキスされて…


名前すら聞けてないや」

ドアの前に立つと、


すでに隙間から音漏れで


あの人の歌声が響いてくる。

防音扉越しに聴いていても、


思わずため息が出るほど心地よく、


透き通った美声だ。

前回の記憶がフラッシュバックし、


私は少し怖気付いて、


ドアノブに伸ばしかけた手を止めてしまった。

「多分、このまま普通に入ったら、


また同じ結果になる。それなら…」

私は胸に手を当て、


前回の敗因を冷静に分析した。


前回の私は、あの人のことを最初から


雲の上の『アイドル』だと思い込んで


接してしまっていた。

だからこそ、


目の前に現れて話しかけてくれたこと自体に


価値を感じすぎて、あっという間に


ペースを奪われてデレてしまったのだ。

「確かに、あの人は


完全無欠のアイドルのような雰囲気を


まとっているわよ。


…それでも、同じ人間なら


対等に向き合うべきでしょ!」

ファンとして崇めるんじゃない。


一人の対等な人間として、


真っ向から向き合って攻略してやる。

そう強く自分に言い聞かせ、


私は迷いを振り切るようにして、


コンサート会場へと続く重い扉を


力強く押し開けた。

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