Diary 写メ日記の詳細
「じゃあね」
(ちょっと待って!)
西島勝利の非情な言葉と共に、
私の意識はプツンと切れた。
……
目が覚める。
なんだか視線が低い。
(ここは…新宿?)
見覚えのある交差点。
たくさんの人が交差している。
時刻は20時を指していた。
(人がいる…私、戻ってきたのね)
感傷に浸って見たが、
どうも全てに違和感を感じる。
(西島勝利が
「欲望に忠実に生きていただく」
って言ってたけど
あれはなんだったんだろう)
暗闇の中であったことを
思い出そうとしながら、
とりあえず歩き出すことにした。
(あれ…
これ私の身体だよね…
なんか…)
抗えない違和感。
そして、ここで初めて現実を理解する。
(私…ネコになってる!?)
不思議な世界から戻ってきたかと思えば、
気づいた時にはネコになっていた。
寝たい時に寝て、
ご飯を食べたい時に食べる。
欲望に忠実…
なんだか、納得してしまった。
(これからどうしよう…
人間の時みたいに行動は出来ないし…
お腹すいた…)
この時、人間なら。
新宿なんてお店で溢れている。
お金さえ払えば簡単にお腹を満たせた。
しかし、今は猫である。
狩りを教わったわけでもないし。
そもそも、何を食べればいいの…?
慣れていない現状に、
私は途方に暮れていた。
「大丈夫かい?」
どこかで見覚えのある男性から
声をかけられる。
(西島…勝利さん…?)
しかし、
どれだけ喋ろうとしても
「にゃー」しか発音できない…。
「お腹すいてるのか?うちにおいで」
私はなんの抵抗もせず、
ただ懐かしい暖かさに抱き抱えられて、
彼の家へ向かう。
「ほら、お食べ」
出てきたのはキャットフード。
先住のベージュっぽい毛色の猫ががっついている。
(食べたくない…
でも…食べなきゃ…)
私はイヤイヤ味見をした。
「にゃっ!?」(おいしっ!?)
あまりの美味しさに
声が出てしまう。
私も夢中でがっついてしまった。
「うん、君も今日からうちの子だ」
優しい笑顔で彼は微笑んでいた。
それから月日は流れ…。
「にゃー」(ご飯ちょーだい)
「はいはい、食べな」
「にゃ!」(ありがと!)
彼との同居生活は最高だ。
食べたい時に食べることが出来て、
寝たい時に安全に眠れる。
人間に戻りたいと
やっぱり思うことはあるのだが。
これはこれで、
悪くはないかにゃっ!
……
私が西島家に入るまでの、
長い長い物語でしたとさ。
『今夜、20時新宿で』 Fin.
