Diary 写メ日記の詳細
この気持ちはなんだろう…
私が戸惑っていると、
彼は急に手を叩いて言い出した。
「俺、なんか分かった気がする」
「何が分かったの?」
「俺、自分のコトばっかだったね。
よく考えれば、シブちゃんのコト全然分かんないや」
彼の口調から
ヘラヘラした調子が消え、
真摯な言葉が紡ぎ出される。
「シブちゃん、君のことが知りたいな」
急な落ち着きように、
私は少し黙り込んでしまう。
「ど、どうしたの、いきなり」
「いや、デレさせようって
考えれば考える程、緊張しちゃって
空回ってる自覚が俺にもあるんだよ。
シブちゃんのアドバイスでやっと気付いた」
「そう…」
彼の急激な成長に
なぜか寂しさを覚える。
もちろん、
私だって辛いことがあって
ヤケクソでここに来た節はあるし、
話を聞いてもらいたい気持ちはあった。
でも、今はそんなコトどうでもいい。
まるで、何もできなかった子供が
急に大人に成長した瞬間のような感覚。
この感情の正体が
何となくつかめた。
「母性……?」
羽田は不思議な顔をして
こちらを見ている。
その表情はまるで子供だが、
言われたことを一生懸命に
こなそうとする姿には心を打たれてしまう。
「あんた、これからどうなりたいの?」
私はすでに彼の成長の
とりこになってしまっている。
しかし、
これが『デレ』という判断には
ならない自信があった。
「俺さ、人に尽くすのが案外好きなんだよ。
自分の熱意で誰かを幸せにできるなら、
それが一番嬉しい」
「執事とか…なりたいかな」
「ふぅん、いいんじゃない?」
そっけなく返すのがやっとだった。
彼が成長して、
あの熱意を「執事Style」という形で極めた場合、
デレないわけがないと確信を持ったから。
「あんたのそういう真っすぐなとこ、
結構好きかも」
私がそう伝えると、羽田千冬の顔に
いつものヘラヘラとした笑顔が戻った。
「ありがとね、シブちゃんのおかげだよ♡」
彼は母親に抱き着くかのように
私に抱き着いてきた。
「あれ…なんか…」
視界がぼやけてくる。
身体に力も入らない…
「おかしいな…」
最後に私の視界に映ったのは、
耳元で静かに囁く羽田千冬のニヤけ顔だった。
「執事Styleか…やってみよう」
私の意識は、
プツンと途切れた。
