Diary 写メ日記の詳細
道枝慎に完全に心を開いていた私は、
ためらうことなく『YES』を選択した。
これが彼の戦い方だとは、
その時の私は気づいていなかった。
「ありがとう、じゃあ、本気モードで行くね」
「…うん」
多分、この時の私はすでに
“女の顔”をしていたのだろう。
目はとろけ、何をされても良いと
許してしまっている顔だったはずだ。
「俺の能力は『優しさの権化』
特別な時間からそんなに変わらないけど、
ゆっくりしていってよ」
今までのメンズには恐怖すら感じる
"威圧感"から始まることも多く、
そこから一気にギャップで攻められることが多かった。
まず最初にくる感情は“驚き”だった。
しかし、
今回は何と緩やかな変化。
私を驚かせない、怖がらせないといった
最大限の配慮を感じる。
そうか…勘違いしていたけど、
本来「特別な時間」って、本気モードの120分に
なめらかに入っていくための時間だったんだと気づいた。
しかし、そのときにはもう遅かった。
「表情とろけてない?
火照ってるし…大丈夫?
でも、すごくかわいいよ。
チューしたくなっちゃう」
(そんな…今は…ダメ…)
『…チュッ…』
なぜだろうか。
キス魔・三宅優人の時は
確かに初めてのキスだったからデレてしまったけど、
その時の感情とはまるで違う。
幸福感で脳が満たされる感覚。
これが本来のキスなのだと、私は改めて認識した。
「チューは嫌い?」
彼が心配そうにこちらを見てくる。
嫌いなわけがない。
むしろ…
「もっと…もっとして…?」
視界が暗くなっていく…
この感覚…リセットだろう。
だけど、不思議と不満はない。
なぜならば、今の私は幸福感で満たされているから。
「またね」
そう言って微笑みかけてくる彼が、うっすらと見えた。
「最後の最後まで優しいんだから…」
そう呟いて、私の意識は途切れた。
……
「ん…」
次に目が覚めると、
見慣れた光景が広がっていた。
歌舞伎町一番街の門の前。
シブの姿は見当たらない。
「さっきの感覚…また味わいたいな…」
そう呟いて、周りを見回す。
その時に不可解な表示が目に留まった。
『ザンキ:ノコリ1カイ』
「ザンキ…?なんだろ…これ」
よく分からなかったが、
今の私にはどうでもよかった。
「また、彼に会えるなら…
今はこんなのどうでもいいや」
と、表示を気にせず歌舞伎町タワーへ向かう。
後に、この表示に“なかされる”ことになるとも知らずに…。
