Diary 写メ日記の詳細
「彼に会えるなら…」
歌舞伎町タワーの前に立つ私。
道枝慎の優しさが脳裏を占め、浮き足立っていた。
しかし、ふと何か忘れている感覚を覚える。
「私って何でこんなに頑張ってたんだっけ?」
……
「そうか…私、現実に戻りたいんだった」
正気に戻った私は、道枝慎への再挑戦を決心する。
「嫌いではない…
むしろ大好きだけど…
攻略はしないと先には進めないから!」
決心の果て、私はシブから教わった
『チートコード』を唱える。
『上上下下右左右左ホホイノホイホイ!』
視界が真っ暗になり、
身体が宙に浮くような浮遊感に襲われる。
「今回は負けないんだから…!」
目を覚ますと、
道枝慎が隣で心配そうな目で見ている。
「大丈夫?どこか痛い…?」
「いいえ、大丈夫。ありがとう」
特別な時間がない分、
心のガードはまだ硬い。
私なら大丈夫よ…。
自分に言い聞かせ、自我を保つ。
「特別な時間もスルーしちゃったから、ちょっと緊張してるね」
彼は優しく微笑む。
その顔からやはり強敵であることを思い知らされる。
「だけど…負けない…!」
私は冷静に道枝慎の攻略法を模索した。
(彼に似たメンズ…今までに…櫻井翠だ!)
彼の攻略で、私の弱点が
「優しさ」や「彼氏感」といった
現実味のある行動だと痛感していた。
あの苦く、甘い思い出を忘れることはできない。
「ぼーっとしちゃって。なんか考えてる?」
彼が話しかけてくる。
「だ、大丈夫だよ!気にしないでね!」
「気にしちゃうよ…だって、さみしいんだもん」
私は驚愕した。
圧倒的に優しいだけかと思っていたが、
甘えることもできるのか…。
思わず撫でそうになったが、
そこで紫水晶との攻略を思い出す。
(甘え上手は撫でてはいけないんだ…!)
「禁域…怖いなぁ…」
そう思いながらも、
私の中で攻略の解答を導き出すことができた。
(優しさや彼氏感は
”受け身”な態度をとると確実にデレてしまう…
逆を言えば、相手のペースさえ奪い切ればいいんだ)
導き出された結論が
通用するかは分からないが、試すのみ。
そう思って彼の方を向き、言葉を振り絞る。
「…ねぇ、チューしようよ」
「ん、あ、え、あ、うん!」
戸惑っている。
なんだか可愛く思えてきた。
いい感じであることを実感する。
愛おしいと思っても撫でてはいけない。
無心でいることを意識し、
何度もキスをして相手のペースを乱した。
「ちょっと…やりすぎじゃない…!?」
そう言われる程度まで…。
120分を告げるチャイムが鳴り響く。
櫻井翠・紫水晶との攻略が
ここで役に立つとは思っていなかったが、
やはり私も成長しているのだと改めて感じた。
「俺のこと…あんまり好きじゃなかった…?」
目をウルウルさせながら、こちらを見てくる。
何だこの生物は。人間か…?人間なのか…?
「推し活」という言葉を何となく理解しながら、
私は心からの笑顔で彼に伝える。
「大好きだよっ!最高だった!」
もう彼にハマっているようだ…。
恐るべし、禁域。
彼は笑顔で
「良かった、俺もだよ」
と言って、扉の方へ案内してくれる。
「禁域攻略、お疲れ様。
ここの扉を開ければボスがいる。
くれぐれも気を付けてね」
「ありがとう、頑張るよ」
いよいよ、最後の戦い。
私に出来るかな…。
