Diary 写メ日記の詳細
歌舞伎町一番街の門前。
私は、荒い呼吸と共に目を覚ました。
「ここは?戻ってきちゃった…?」
身体に力を入れようとするが、
全身がだるい。
最後の記憶は、
羽田千冬のニヤけ顔と、突然の抱擁。
(敗因は…
抱き着かれたことによる『デレ』?)
あまり男性経験がない私にとって、
母親に甘えるような羽田の抱擁は、不意打ちだった。
慣れないことが突然起きたせいでびっくりし、
一気に気が緩んでしまった。
あの抱擁が、デレと判定されたのだ。
「あのヤロウ…」
悔しさで歯を食いしばると、
突然スマホが光る。
『ザンキ:ノコリ3カイ』
「え…嘘でしょ。
残機なんて設定あんの…?
これ、無くなったらどうなんの!?」
夢かと思い、頬をつねる。
「いたっ…」
このタワーが、
本当に人生をかけた有限のゲームだと、
今初めて実感した。
……
歌舞伎町タワーの最上階。
夜景を見下ろす展望フロアで、
西島勝利は一人、モニターを覗き込んでいた。
画面には、
門前で立ち尽くすシブの姿が映っている。
「やはり、明確なゴールがないと、
お客様もメンズも疲弊するだけだ。
それに、デレの判定が曖昧すぎる」
西島は自立式AIに指示を出す。
「タワーのルールを変更する」
「これからは、
150分間メンズの誘惑に耐えきれば攻略完了とする。
これを、お客様に伝えてくれ」
その瞬間、
門前にいる私の脳内に直接、AIの声が響いた。
(シブ様、タワーのルールが更新されました)
(攻略のルールは、
150分間、各階のメンズの誘惑に
耐えきることでございます。
デレなければ、クリアとなります)
「150分…何が基準になってるんだろう…」
明確なゴールができたことに、私は安堵した。
これで、ただ延々と誘惑に晒されることはなくなった。
私は、羽田戦での敗北を思い返す。
敗因は、羽田の成長による油断。
最初はたどたどしかったが、
人の意見をしっかり聞いて
素直に実行する真っすぐな姿勢。
これにはさすがに
「母性」が働いてしまった。
それがあったから、
さっき油断してしまったのだろう。
(だが、今はそんなことどうでもいい。
新たなルールができた。
このルールの中でなら、私は負けない)
「負けない…はず…。」
私は、再び立ち上がった。
「馬鹿みたいに抱き着かれて、
純粋な感情で負けるなんて、もう二度とゴメンよ!」
「待ってな、羽田!
今度こそ、あんたの魅力を、
新たなルールの中でねじ伏せてやるんだから!」
私は強い決意を胸に、
歌舞伎町タワーの自動ドアへ向かって歩き出した。
