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第十九話:前から手裏剣!?
羽田千冬 2026.10.06
第十九話:前から手裏剣!?

花宮結という、


完全無欠のアイドルによる


甘い猛攻を奇跡的に耐え抜き、


私は第四階層へと向かっていた。

「はぁ…。ていうか、


階段上るの地味にキツいのよね。


エレベーターくらいないの?全く…」

ぶつぶつと不貞腐れながら


最後の段を踏みしめた、まさにその矢先だった。

シュッ!!

空気を切り裂く異様な音が、


静まり返ったフロアに響き渡る。


視界の端で捉えたのは、


目にも止まらぬ超高速の鈍色の金属光。

「えっ、ちょっ!?」

あまりの速度に、


私は悲鳴を上げる暇もなく目を瞑り、


その場に頭を抱えてしゃがみ込んだ。

その瞬間。

チャキィィンッ!!

硬質で澄んだ金属音が頭上で弾けた。


続けてカチャリと鞘に刀が収まる


心地の良い音が聞こえる。

風圧が通り過ぎ、


誰かがすぐ目の前に立っている気配を


肌で感じていた。

「大丈夫?」

恐る恐る目を開けて見上げると、


そこには腰の刀を納刀し終えたばかりの


長身の男が立っていた。

「あっ…はい、大丈夫です…」

「良かった!」

男は屈託のない笑顔を浮かべ、


まるで近所の知り合いに挨拶するかのように


にっこりと笑いかけてきた。

そして、その男の手には、


先ほど弾き落とした『手裏剣』が


しっかりと握られている。

「最近、物騒でね。


ムラムラしている連中がいるせいで、


女性相手に手裏剣投げられる時があるから、


気をつけてね」

「は? 手裏剣? ムラムラ…?」

何を言っているのか、


一言も頭に入ってこない。

え、なぜ令和の歌舞伎町タワーで


手裏剣が飛んでくるの?

ていうかムラムラした連中って何?


欲求不満の行き着く先が手裏剣投擲なの!?

ていうか普通に眉間狙ってたよね?


結構物理的に殺意満々じゃなかった!?

あまりにも情報量が渋滞しすぎて、


「脳みそフル回転の超覚醒モード」に突入。


頭の中で無数の疑問が浮かんでは消え、


現状把握に必死になる。

(いや、落ち着け私!


何はともあれ、物理的に


命を救ってもらったのは事実でしょ!)

必死に呼吸を整えて冷静さを取り戻し、


立ち上がって男の目を真っ直ぐに見つめた。

「あの…さっきは助けていただいて、


ありがとうございました。えっと…お名前は?」

「名乗るほどのものではないが…


新庄司(しんじょう つかさ)って言うんだ」

(思いっきり名乗ってんじゃん…!)

心の中でツッコミを入れたものの、


今の私にはそんな些細な矛盾を


わざわざ突っ込む余裕すらなかった。

周囲を見渡しても、


いつものような「個室のドア」が


見当たらないのだ。

「もしかして、次の階層って…」

「うん、ここだよ。俺が次」

新庄司は爽やかな笑顔のまま、


刀の柄に手を添えてにっこりと微笑んでいる。

私の現状把握は


未だに追いついていないけれど、


どうやらこの階層は「部屋に入る」という


概念すらなく、この通路全体がフィールドらしい。

そんな野外戦(?)みたいな


仕様もあるんだなぁ。

フリーすぎるシステムに呆気にとられつつも、


刀を持ったイケメン相手に


敵意を見せるわけにもいかず、


私は思わずぺこりと頭を下げた。

「よ、よろしくお願いします」

思わずかしこまってしまった私の前に、


刀を携えた新たな刺客・新庄司が


立ちはだかるのであった。

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